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旭川家庭裁判所 昭和59年(少)1205号 決定

少年 I・K子(昭四四・一一・八生)

主文

この事件については審判を開始しない。

理由

(非行事実)

少年は、○○中学校三年に在学中のものであるが、保護者の正当な監督に服さず、不良交遊、怠学、家出を繰り返しているほか、(1)A子、B子、C子と共謀のうえ、昭和五九年五月末ころの午後四時三〇分ころ江別市○○町××番地○○合資会社の空家内において、○○中学校二年生D子に対し、殴る蹴るの暴行を加え、「明日までに二〇〇〇円集めな」などと申し向け、その翌日学校で同女から現金二〇〇〇円の交付を受けてこれを喝取し、(2)A子、E子、C子と共謀のうえ、同年七月四日午後五時ころ、江別市○△町××番地○○公園内の公衆便所内に○○中学校二年生F子、G子の両名を連れ込み、同所で「態度がでかい」などと因縁をつけ、殴る蹴るの暴行を加え、さらに、男子便所の小用便器に両名の頭部を押し付け水洗用の水を流して頭部をぬらすなどしたのち、「明日までに一人二〇〇〇円ずつ集めて来な」などと申し向け、翌五日学校で両名から合計四〇〇〇円の交付を受けてこれを喝取し、(3)A子、B子、E子と共謀のうえ、同月五日午後五時ころ、江別市○△町××番地の×H子方二階のE子の居室に○○中学校二年生J子を連れ込み、同所において「普段から生意気だ」などと因縁をつけ、こもごも理容バサミで同女の髪を切断し、衣服をぬがせて下着姿にしたうえ殴る蹴るの暴行を加えたものであり、その性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れるおそれのあるものである。

(法令の適用)

少年法三条一項三号イ、ロ、ハ

なお、上記認定の非行事実中(1)ないし(3)の各事実は、恐喝、傷害又は暴力行為等処罰に関する法律違反罪の各構成要件に該当するものであるから、本件は本来、犯罪事件として処理すべきものである。

しかしながら、本件においては以下のような特殊な事情から、これを犯罪事件として処理することが事実上不可能なため、上記各事実をぐ犯事実の一部として評価することもやむを得ないところと考える。

すなわち、本件については、被害者側の被害申告はなかつたものの、被害少年の一人が治療を受けた病院からの通報によつて本件を察知した警察が、直ちに学校側と連絡を取り、犯罪捜査に努めた結果、事件関係者も割り出され、少年については、上記犯行をいずれも認める旨の供述調書も作成された。しかし、当事者間に示談が成立し、加害者側が陳謝し、被害弁償をも行つたことから、被害者側がいずれも少年らを宥恕し、被害届の提出及び供述調書の作成を拒否したため、結局、犯罪事件としての立件は断念され、少年についてぐ犯通告がされたという事情があり、現在に至るも上記犯罪事実の証明に必要な補強証拠は得られない状況にある。

(処遇の理由)

少年には、中学二年ころより不良交遊が始まり、それに伴つて、喫煙、シンナー遊び、怠学、家出等がみられるようになつたが、中学三年に進んでからは、保護者の監督にも反発し、このような問題行動を拡大させ、下級生に対する暴力的行為や「カンパ」と称する恐喝行為等を繰り返すようになつた。本件は、まさにこのような状況下において、下級生に対し、自己の支配勢力を誇示するために敢行されたものであり、その態様は悪質的なものと言わなければならない。

しかしながら、少年は、本件後母方叔父夫婦のもとに転居し、旭川市内の中学校に転校してからは、不良交遊も改まり、これまでの問題行動もまつたく見られなくなり、叔父夫婦の指導に従い規則正しい生活を送るようになつている。したがつて、上記少年の問題行動は、一過性のものとも考えられるところから、少年がこれから先もこのような規則正しい生活を続けて行くことができるか否かはなお若干の不安もないではないが、現時点においては、少年の自力更生に期待することとし、上記決定を相当と判断する。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 窪田もとむ)

〔参考一〕援助依頼書

昭和五九年(少)第一二〇五号

援助依頼書

少年I・K子

昭和四四年一一月八日生

住居旭川市○○×条×丁目M方

上記少年については、昭和五九年八月七日貴職からぐ犯通告があり、現在、当庁に係属中でありますが、調査のため、少年法一六条一項に基づき、別紙記載の事項に関して援助を依頼します。

おつて、本件の審理の都合上、一〇月中旬ころまでに御処理をお願いいたします。

昭和五九年九月二〇日

旭川家庭裁判所

裁判官 窪田もとむ

札幌方面○○警察署

警視○○○○殿

(別紙)

1 援助を依頼する事項

(1) 本件について、少年に暴力行為等処罰に関する法律違反、恐喝等の犯罪の嫌疑が認められるか否かを捜査し、犯罪の嫌疑が認められる場合には、関係資料を追送付し、又は、別に犯罪事件として検察官に送致していただきたい。

(2) 仮に、上記の処理が不可能又は著しく不相当な場合には、その理由を具体的に、書面をもつて報告していただきたい。

2 援助を必要とする理由

(1) 本件少年については、昭和五九年八月七日に貴職からぐ犯通告がされておりますが、通告書の「審判に付すべき事由」に記載された事実はいずれも犯罪構成要件に該当するものであり、かつ、添付資料中には上記犯罪事実を全面的に認める内容の少年の自供調書が含まれておりますので、本件については暴力行為等処罰に関する法律違反、恐喝等の犯罪が成立する可能性が高いように見受けられます。

(2) ところで、御承知のように少年の行為が犯罪構成要件に該当する場合には、犯罪事件として処理すべきものであり、犯罪構成要件に該当する事実をぐ犯事由の一つとして扱い、これをぐ犯事件として終局させることは、家庭内暴力事件などのように、そのような処理をすることもやむを得ないと認められる極く例外的な場合を除いては、一般に適当でないものと考えられております(ぐ犯の補充性)。したがつて、当裁判所としては、前記(1)のような事情にかんがみ、本件をこのまま直ちにぐ犯事件として終局させることなく、犯罪事件として扱うことができるかどうか、また、本件をぐ犯事件として処理することが真にやむを得ないところか否かを更に検討する必要があると考えますが、犯罪事件としての所要の捜査が行われていない現段階において、家庭裁判所が職権により共犯者あるいは被害者等を取り調べることは、その司法機関としての立場上、必ずしも適当でないように思われます。

(3) そこで、少年法一六条一項に基づき、貴職に対し、前記1の(1)、(2)の事項に関して援助を依頼する次第です。

〔参考二〕回答書

昭和五九年九月二八日

札幌方面○○警察署長

旭川家庭裁判所長殿

援助依頼に対する回答について

昭和五九年九月二〇日付旭川家庭裁判所(少)第一二〇五号をもつて援助依頼のあつた

少年I・K子

に対するみだしの件については別添報告書のとおりであるから回答します。

昭和五九年九月二六日

札幌方面○○警察署

巡査部長○○○○

札幌方面○○警察署長

警視○○○○殿

援助依頼に対する回答について

本年九月二〇日付旭川家庭裁判所(少)第一二〇五号をもつて依頼のあつた

少年I・K子(一四歳)

に対するみだしのことについては次のとおりであるから回答する。

回答

一 調査対象少年

住居 旭川市○○×条×丁目 M方

I・K子

昭和四四年一一月八日生(一四歳)

二 調査結果

援助を依頼する事項1の(2)について

少年I・K子(ほか四名共犯)にかかる江別市立○○中学校外で発生をみた下級生に対する暴行、傷害あるいは恐喝事犯についてはいずれも被害少年又は保護者からの被害申告はなされず、被害少年の一人が治療にいつた病院からの通報で事実を知り、後日、被害少年の通学している学校側と連絡をとり、被害少年あるいは加害少年の割出しにつとめた結果、学校側で中心となり被害少年とその保護者、さらには加害少年及びその保護者をまじえての話合いがなされ、恐喝については加害者の保護者側で全額返還し、暴行、傷害についても謝罪しすでに和解しており、被害者側においても被害申告の意思もなく、供述調書作成を拒否しているところから、暴行傷害あるいは恐喝事件として立件送致することができなかつた。

しかしI・K子にあつては両親健在する家庭に育つも放任的であることから保護者の正当な監督に服さず、また今回の一連の行為は自己又は他人の徳性を著しく阻害したものでその行為は悪質であり、少年の性格行状又は交友関係などからみて将来罪を犯し又は刑罰法令に触れる行為をするおそれが認められることから通告した。

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